昔の多くの音楽家は通奏低音で演奏しました。
通奏低音とは定められたバスの進行に沿って即興的に上声部をつける伴奏法です。
即興的に他の声部をつけないといけないので、当然、ある程度の「和声学」の知識と経験がないとできません。
それでは、「和声学」でいわれるバス課題、ソプラノ課題について説明していきます。
バス課題とソプラノ課題
和声法のバス課題は一種の通奏低音だと思います。
つまりバス課題とは進行するバスの音に和音を重ねる課題のことです。
ソプラノ課題はそれとは逆にソプラノの音が定められているものとなります。
バス課題はソプラノ課題に比べると解きやすいです。
しかしそれはバスが重要でないという意味ではなく、むしろバスが重要であるからこそ簡単なのです。
和声を根本的に決定づけるものは旋律や内声などではなく、まさにバスです。
このバスが変わるだけで雰囲気は大きく変わります。
重要であるバスがすでに決められているので、バス課題は比較的解きやすいのです。
課題を実践するときのポイント
では、和声法に対して苦手意識を持っている人はどうすべきでしょうか。
まず、規則を覚えましょう!
たとえば、どのような音の配置が良いのか、なにが和声法的に違反であるのか覚えましょう!
和音設定には定型がありますのでこれも覚えましょう!
和音設定はソプラノ課題を解く際に特に重要になってきます。
それでも分からないときは曲の終わりから和声を解いてみるという裏ワザもあります。
ほとんどの和声課題の一番最初と最後の和音はトニックです。
しかもだいたいは基本形です。
どのようにトニックに戻っていくべきか考えてみると、どの和音が設定されるのか分かりやすくなってきます。
課題を解く上で意識したいことはできるだけ美しい旋律をつけるということです。
私の言う旋律とは、必ずしもソプラノのメロディだけのことではなく、内声の旋律も意味します。
旋律はとても大事です。
人は音楽を聞く際に、多くの場合旋律によって記憶するからです。
旋律は料理でいうところのメインディッシュのようなものでしょう。
単調な旋律にならないように心がけましょう。
簡単な和声分析
和声法をある程度習得したら、その知識を用いて楽曲の和声分析をしましょう。
今回はブラームスの創作主題による変奏曲Op.21-1をごく簡単に和声分析してみます。
ブラームスの他の変奏曲に比べると知名度の低い楽曲ですが、ブラームスらしい緻密な変奏技法によって書かれた作品です。
この楽曲はニ長調で8分の3拍子となっています。
なおここでは、I~VIIのローマ数字は和音の種類を示します。
たとえばVは属和音のことです。
V7のように数字の隣に付いている7は7の和音であることを示します。
そしてここでは和音の展開形は-1のように示したいと思います。
つまり-1は第1展開形、-2は第2展開形というふうに。
DDはドッペル・ドミナント(ドミナントのドミナント)をここでは意味します。
ラのアウフタクトの後、1~6小節目まではバスでレの音が持続され、その上声部では、[I、IV、II7、IV、V7]という和声が重ねられています。
バスは7小節目から動き始め、8小節目まで[I、V-1、VI7、DD7-4、V-1、DD7-2]と続き、9小節目でVに半終止します。
10小節目は同主調であるニ短調に転調し、[I、V7-2、I-1]と和声づけられ、さらに11小節目ではニ短調の平行調であるヘ長調へ転調し、[V7-2、I-1、V7-3]と和声づけられています。
和声的な特徴が見られるのは13小節目の転調です。
13小節目ではニ長調のV7を経由することによって主調へ戻るように工夫されています。
12小節目の3拍目と13小節目の1拍目ではそれぞれ[ファ、ラ、ド][ソ、ラ、ド♯、ミ]という和音になっており、それぞれはラの音を共通にしながら12小節目のドはド♯へ、ファはソとミへ動くことによってなだらかに転調が行われています。
古典的な和声法にはなかなか見られない転調法となっており、新しい和声感覚を感じます。
さて、14~17小節目では再びバスでレの音を持続しています。
その上声部では[ト長調のV7、ト長調のI(=ニ長調のIV)、ニ長調のV7]と和声づけられ、18小節目でIに解決します。
このように和声分析をしますと、作曲家がどのような工夫をしているのかよく分かります。
もし関心がありましたら次の楽曲を分析してみましょう!
・バッハのコラール
・モーツァルトとハイドンの弦楽四重奏曲
・シューベルトのピアノソナタ
・シューマンの歌曲
・ブラームスの合唱曲
・フォーレの歌曲
個人的な意見ですが、特にシューマンの歌曲の和声分析は特におすすめで、とても勉強になりますよ!
まとめ
和声課題を解くためには和声的な感覚に慣れるということと教本をしっかり読むということが大事です。
ここで書きましたように、もし行き詰まったときは初めから解くのではなく、最後から、場合によっては途中から解くという方法もあります!
視点を変えて課題に取り組むことによって、見えなかったことが見えてくることがよくあるのです。
また、多くの課題を解くということも重要です。
知識として吸収したものを実践しながら、和声法を深く理解していきましょう!